二月ももうすぐ終わる頃、長い長い眠りの中から、リスの子は、目を覚ましてしまいました。
外はまだ真っ暗で、風はなく、ただしんと静まりかえっていました。
「…おなかすいた…」
木の葉にくるまれたふとんの中で、リスの子は、ふと、去年はおかあさんと一緒だったことを思い出しました。
リスの子が長い眠りの中から目を覚ますと、おかあさんはいつも、お空の上にある、とても幸せな光の国のおはなしを聞かせてくれたのでした。
リスの子は急にさみしくなり、木の葉をかきわけ、そっと小さな顔をのぞかせました。
高い木のてっぺんに空いた穴から、まあるい空とたくさんの星が見えました。
「…お母さん…」
リスの子のまっ黒い小さな瞳から、小さな小さな涙が、ポロリと一粒こぼれました。
その時、まあるい空から、大きなオレンジ色の流れ星が、音もなく、ツーッと流れました。
リスの子はびっくりして、窓から外を見ました。おおきなオレンジ色の流れ星は、長い長い尾を引きながら、東の方に落ちてゆきました。
リスの子は、こんなに大きなオレンジ色の流れ星を見たことがありませんでした。
まっ黒い小さな瞳を大きくキラキラさせながら、リスの子は、まだ眠っていなければいけないことも忘れて、窓から外に飛び出しました。
外はガラスのようなキンとした冷たい空気におおわれていて、真っ白に冷たく凍った雪の地面は、
駆けて行くリスの子の四つの小さな足を、真っ赤にしました。
リスの子は、今まで聴いたことも嗅いだこともない、音や匂いにドキドキしながら、流れ星が落ちた東の方に走ってゆきました。
どのくらい走ったのでしょうか‥しばらくして、小高く開けた真っ白い原っぱの上に、流れ星はありました。
流れ星は、一つの大きなオレンジ色の星ではありませんでした。
真っ白く雪でおおわれた原っぱ一面に、無数の星のかけらが。
まるでこんぺい糖のように、ピンク色や、みず色や、オレンジ色に淡く光りながら、あちこちに転がっていました。
リスの子は、ピンク色の星のかけらに近づいて、そっとそれを手に取りました。
あたたかい桃色の光が、リスの子の顔やおなかを、やさしく照らしました。
リスの子は、うれしくなって、鼻先を上に向けて、目を少し細めました。
そして、ピンク色の星のかけらを大事そうに胸に抱えると、みず色やオレンジ色の星も拾い始めました。
もうこれ以上抱えきれないほど星を抱えたとき、リスの子は、とてもいい事を思いつきました。
「みんなにもお星さま分けてあげよう」
リスの子は、一つづつ星を大切にほっぺの中に、しまいはじめました。
「…これでよし」
リスの子は、余った星を、そっと雪の上に返しました。
そして、ぺこりと頭を下げると、もと来た道を、また、戻ってゆきました。
ピンク色や、みず色や、オレンジ色の星をしまったリスの子の両方のほっぺは、うっすらと虹色に光り、雪の道を夢のように照らしました。
リスの子は、家に帰る一つ前の道を右に曲がると、まだ眠っている大きな大きなブナの木の前で、静かに立ち止まりました。
「ブナの木さん…」
リスの子は、ほっぺの中からオレンジ色の星を取り出しました。
そして、真っ白く雪で埋まったブナの木の根元に穴を掘り、星をそっと埋めました。
「トチの木さんには、みず色星…くぬぎの木さんには、黄色の星…」
同じように、他の木々にも、一つ一つそっと根元のあたりに埋めました。
「…これでおしまい」
まだ、リスの子のほっぺが片方だけ、淡く桃色に光っていました。
「…これは、おかあさんの…」
リスの子は、小さな手で桃色のほっぺをおさえると、うれしそうに家に帰ってゆきました。
帰ってゆくリスの子の後ろ姿が、前より少し、小さくなったように見えました。
リスの子は家に戻り、木の葉の中にもぐり込みました。
そして、大事そうに、ほっぺからピンク色の星を取り出すと、枕元に、そっと星を置きました。
星はリスの子の頭の上で、いつまでもあたたかく光っていました。
「…おやすみ…」
リスの子は、幸せそうにほほ笑みながら、あと残りわずかな眠りの中に、ゆっくりと入ってゆきました。
三月半ばごろ、いつもと少し違う朝がきました。
あたり一面、真っ白に埋め尽くしていた雪も湯気を立てて消えはじめ、空から射す日の光は、冬の白い光から、暖かな春の金色の光に変わりました。
木も、虫も、動物たちも、少しづつ長い長い眠りから覚めてゆきました。
リスの子が星を埋めたところから、次々とオレンジ色や、みず色や、黄色の花が咲き始めました。
ブナの木も、トチの木も、くぬぎの木も、目覚めたばかりの目をパチパチさせながら、足元に咲いている、
見たこともないような、美しい花に、とてもおどろきました。
森中すべての命が目覚めた中に、リスの子の姿はありませんでした。
リスの子の家の中に、小さな桃色の花が、一輪、静かに咲いていました。
高い木のてっぺんに空いた穴は、金色の暖かな春の光の中に、まっすぐどこまでも、続いていました。
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